「『源氏物語』とエトセトラ」
橘葉月



 ついに書いてしまいました。源氏物語を素材にした小説、それも葵の上のお話を。
 源氏物語の中でも思い入れが強く、登場機会が少ない葵の上を主人公、もとい、語り手にしてみました。
 源氏物語の最初の帖の「桐壺」で源氏の君と結婚し、第九帖目の「葵」で死んでしまうというはかない一生を送った人です。
 源氏の君より四歳年上で、気位が高すぎて打ち解けられなかったところに親近感を感じます。私もプライドはかなり高いですから。
 彼女の話を書くことはさっさと決まったのですが、どういう切り口で書こうかということで悩みました。
 よくあるパターンは、本当は源氏のことが好きなのに打ち明けられなくて死の直前にやっとわかりあえる、というもので、最初はそれにしようかとも思いましたが、もっと個性的なのにしたくてこの形に落ち着いたのです。
 でも、朱雀帝に恋い焦がれるってかなり無理があるんですが…。
 友人には「どうしたらあのダメ男をここまで好きになれるの?」と言われました。
 同感です(笑)。
 源氏物語の男たちにろくなのはいませんが、ここまでダメな男も珍しいです。
 父・桐壷帝には気にかけてもらえず、強力な母-弘徽殿の大后の支配を受け、何かにつけ優れた弟・光源氏と比べられ、好きになった女・朧月夜の尚侍はその弟に取られる。それでも、弟を許し、自分の最愛の娘を弟に嫁がせる。
 と、いいところなんか一つもないような男なんですが、葵の理想の男性にして、彼女を突っ走らせてみました(途中まで)。
 でも、結婚するまで噂を聞いたり手紙のやり取りをするだけで、実際に会うことのない平安時代の結婚の形式からすると、彼女のような妄想的恋愛も多かったのではないでしょうか。(と勝手に自分を正当化する(笑))
 あ、「源氏の君」の呼びかたですが、いろいろ考えたんですが、彼女が「光の君」とか「光源氏」とか呼ぶのは変な気がしたので、「源氏の君」という微妙な呼び名にしました。

 さて、本編との違いですが、まずもちろん葵が朱雀帝を好きだったなんて記述はありません。そして、二人の出会い(?)のもありません。添い伏しの夜の詳しい記述も。
 というより大まかな設定だけを源氏物語から借りてきてその他のこと-特に葵の心情-はすべて私が創り出したものです。
 この話を信じないように(誰も信じんって)。
(とはいいつつ、私の高校時代の担任(現代文担当)は信じたらしいです…)


 では、源氏物語に関する橘葉月の一人語りに入りますかね。
 源氏物語で、葵のほかに好きな登場人物は紫の上と花散里、宇治十帖の大君です。
 紫の上は置いておいて、花散里と大君ってすごくマイナーですよね。
 花散里の姉は源氏の君の父の桐壷帝の女御だったんで、彼女も上流貴族の出なんですが、落ちぶれてひっそりと暮らしているんです。
 源氏がたまにしかやってこなくても恨み言をいうわけでもなく、たまに訪れる源氏を優しく包み込む感じの人です。
 六条院では夏の町を与えられて、夕霧の養母となります。ちなみに夕霧は葵の上の子供です。
 花散里は美人ではなかったので、年を取ってからは源氏と会うときも几帳越しだったそうです。               
 私は彼女の控えめで優しいところが好きです。理想です。
 私はそんなキャラじゃないので。
 大君は、桐壷院の八の宮、つまり源氏の異母兄弟を父とし、父と妹とともに宇治の山里に暮らしていました。そこに薫がやってきます。
 薫は表向きは源氏と女三の宮の間に産まれた子ですが、本当の父は柏木で、彼は女三の宮と密通したことを源氏に知られてそのショックで病気になって死んだのでした。
 大君と中の君は、八の宮が死んでからますます頼りない身の上になり薫の援助にすがって暮らしています。
 薫は大君に好意を持ちますが、大君は薫と中の君の間を取り持とうとするので、薫は中の君を匂の宮と縁付けました。
 匂の宮は源氏の娘の明石の中宮と朱雀院の子供の今上の間に産まれた子です。
 匂の宮が身分の高さゆえなかなか通ってこれないのを見て大君は妹の不幸を悲しみ、病に倒れ、帰らぬ人となります。
 薫は後一歩という機会を何回か得ながら、実力行使ができず、ついに大君を手に入れることができませんでした。
 大君は本当は薫が好きだったんだと思います。でも、拒み通した彼女の潔さが好きです。
 源氏物語の登場人物で、一般的に人気のある人は、朧月夜と浮舟だそうです。二人の男に愛されるところは同じですが、性格は陰と陽のような二人です。
 源氏の兄の朱雀帝に女御として入内するはずでしたが、その前に源氏と関係をもってしまい、尚持として出仕することになったのです。その後も関係が続き、それが見つかったことが源氏の失脚の原因となったのでした。
 浮舟は大君、中の君の妹に当たりますが、生母の身分が低かったため八の宮に認知されていませんでした。でも、大君に生き写しで、薫によって宇治に囲われることになります。浮舟のことを知った匂の宮は薫のふりをして押し入り、関係を結びます。
 薫と匂の宮との間で心を決めかねた浮き舟は宇治川に入水しますが命は助かり、尼になります。
 私としてはこの二人のどこがいいのかわからないんですが……。

 好き嫌いはおいておいて、私の性格は六条の御息所なんだそうです。性格フローチャートみたいなのでそうなりました。嫉妬すると止まらないんです。でも、誕生日を元にしたやつでは葵になりました。プライド高いです。二つともあってますね。


 源氏物語の現代語訳や小説も結構読みました。
 最近(2000年6月当時)読んだのだと、橋本治さんの『窯変源氏物語』。三回日の挑戦でやっと最後まで読み切りました。二回途中まで読んで、やめたんですが、授業で源氏物語をやったときにまた読み初めて、なかば意地で読み切りました。
 この本はおすすめできません。なぜって、源氏物語を嫌いになってしまうと思うからです。源氏の視点から書かれているのですが、登場人物がすごく嫌な人に描かれているんです。心理分析が細かいんですが、そこまで深読みしなくても…って感じになります。
 瀬戸内寂静さんの『女人源氏』はお勧めです。これは源氏物語に出てくる女性の視点から書かれていて、私の『葵 一人語り』の原点です。中2ぐらいのときに読んだんですが。
 田辺聖子さんの『新源氏物語』は私が初めて通して読んだ現代語訳です(これも中2ぐらいの時)。平易な文章で、おすすめです。その続編の『霧深き宇治の恋』は宇治十帖の話なんですが、私はこれで薫にはまりました。今でこそ最低の男だと思っていますが、それは『窯変源氏物語』の影響を多々受けているせいかもしれません。
 田辺聖子さんといえば『私本源氏物語』。
 これは源氏物語の登場人物を壊しに壊しています。続編も二冊出ていて、すごくおもしろいので読んでみて下さい。
 与謝野訳や円地訳も読んでみようと思ったんですが、難しくて挫折しました。
 橋田寿賀子さんのドラマの脚本もよかったです。
 作者が思い出せるのはこれくらいですが、ダイジエスト版は結構出ています。でも、源氏が須磨に隠棲するあたりまでしか書かれていないものが多いので、源氏がただの色好みだと考えている人が多いんですが(それでもいいほうかもしれない)、その後の中年の源氏の苦悩は深いです。源氏物語が世界的に優れた文学だとされているのは、この第二部があるからだと思います。

 何を書いているのか分からなくなってきましたが、ともかく源氏物語について語ってみました。
 お付き合いいただいた皆さん、ありがとうございました。

初出:T県立T高校文芸部 部誌『双輪』 2000年6月刊
改稿:2004年10月14日


〈つけたし(2004年10月14日)〉
 今更ですが、私が高校3年生のときに書いた、『源氏物語』をもとにした小説を出してみました。
 直したいところは山のようにありますが、直しだすときりがない&プロット自体変えたいくらいなので、あえてそのまま出してみました。
 葵ちゃんの暴走っぷりを笑ってやってください。あと、いきなり性格変わったりしてます…。
 辻褄が合わないけど、なんとなく書きたい部分を連ねていったらこんな話になったんですよ…。
 ラストの、死に際の葵が源氏と打ち解けるところは、「錯乱状態の葵は、源氏を朱雀帝だと勘違いしたまま、幸せに死んでいく」っていうネタもあったんだけどなあ。死後の魂だけの葵ちゃんが書きたくなって、ああいう心変わりをさせてみました…。
 できれば、また『源氏物語』の二次創作したいです(笑)。平安時代末に書かれた『源氏物語』の続編『山路の露』もありますし、著作権にも引っかからないからいいでしょ(笑)
 では、また

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